いろいろ

読んだ本の感想とか。男と男の膨大感情が好き。

「アンティミテ」

 

 

アンティミテ (ディアプラス文庫)

アンティミテ (ディアプラス文庫)

 

 

 

「アンティミテ」読みました。

久しぶりのミチ先生の新刊…!今回もめちゃくちゃ良かったです。

ミチ先生の地の文が大好きだ〜。

静かで息をつめた勢いがあって、でもあつくて、言葉に乗せると句読点が無い喋りというイメージ。

言葉選びは繊細で…とにかく好きだ。

 

 

ひつじの鍵 (ディアプラス文庫)

ひつじの鍵 (ディアプラス文庫)

 

「ひつじの鍵」に出てきてた和楽くんのお話、以前刊行された「ひつじの鍵」のスピンオフです。

スピンオフですが、これだけで全然読めます。

 

以下はネタバレしてます。

 

絵について、「書く」人と「売る」人の物語でした。

才能と、才能に値段をつけて売る人。

和楽くんはギャラリストで、仕事で行った高校の踊り場で1対の絵に出会って、その絵に魅入られて話が展開していきます。

その絵の作者、群は美大に行くわけでもなく仕事しながら趣味程度に1人でぽつぽつ絵を描いていて、そこを和楽くんに見つかる…いや和楽くんの情熱と執念というか運命というか…とにかく見つけてしまったという。

そして郡はとんでもない才能の持ち主という。

 

まず、至るところに名作の絵が出てきてとても楽しいです。

小説で絵の事読むのって不思議な気分になりますね。

絵の説明、というのは何というか…絵の本質みたいな所の正反対を行っている気がするのですが、和楽くんもきっとこういう微妙な気持ちを抱えて仕事してるのかな〜と思います。

好きで、すごくすごく好きで、きっと絵って感じるものなのに言葉で説明する、ことを得意とする矛盾というか…

でも説明という表現が和楽くんの本質、特徴というか…彼らしい所だとも思います。
モネの睡蓮、葛飾北斎モナリザ、落穂拾い、星月夜……知ってる絵から知らない絵までたくさん。

読みながら、どんな絵なのかな〜って検索すると言ってる事がわかって楽しいし、知ってる絵だとまたわかる!ってなって楽しい。

 

そしてタイトルにもなっている、ヴァロットンの「アンティミテ」。

私、恥ずかしながらこの絵…というか版画のことは知らなくて読み終わって検索してみたんですが、すごく……何というか、「やらしい」かったです。

アンティミテ、は「親密さ」の意。

群いわく、この連作を寝室に飾ってる人間、「大人って感じ」がしすぎる……和楽くん…

黒と白だけなのがまた、シンプルでコントラストが効いてて、それでテーマがどんと効く感じで…

私もこの版画、黒の空間の使い方がものすごく好きです。

そこにそんな黒を置くのか…と興奮した。

男と男の話なのに、男と女のいろんな「やらしい」を題材にしたテーマの連作、と同じタイトルにするなんて……やらしいな〜!

でも『アンティミテ』、連作それぞれのタイトルを見るとなんとなくこの本と合っているな〜と思います。

読んだ方はぜひ検索してほしいな。

 

『アンティミテ』含め、「ナビ派」と呼ばれる派らしいです。絵は好きなので気になって、ちょっとだけ調べてみました。

「見えるまま」、見えた景色の色や風景をキャンバスに忠実に再現するのではなく、赤く見えたと思ったら赤く塗る、青く見えたと思ったら青く塗る、というように、「作者が感じたまま」を表現した派らしい。

日常のひとコマ、みたいなシーンの絵が多いのに、ベタ塗りで明らかに現実世界ではない、「絵」でしかない世界の絵…が多い。ちょっと調べただけですが。

と同時に「目には見えないもの」…神秘性というか、神様的というか…ちょっと精神世界みたいな所があったりして、この日常感とのコントラストがすごく不安で不気味になる絵達の派だな…と思います。

 

「『見えるまま』って『分かる』ことから縛られない意味」「赤ん坊がこの世を見た時の景色」、と群が作中で言っていたのですが、まさにこれだな〜と思いました。

「『見えるまま』だけが本物じゃない」、「『見えるままも』十人十色」…見えるままを切り取って名前をつけていくことも美しい1つですが、「なんかすげえ」みたいな感情もまた美しいことの1つですよね。

上はふたりの会話の一部なのですが、才能で描いてるタイプ群、の絵に対するスタンス、みたいなものが、和楽くんの言葉によって表現されていっていてとても素敵でした。

絵を通じてふたりのアンティミテがどんどん近くなっていって。

なんかちょっと硬い和楽くんと柔らかい群が、絵という共通点を通じて親密さを増していくの、とってもとっても良い……

 

羊くんが出てきたのも良かった。

魔法使いさんと相変わらずみたいで安心しました。

 

群は和楽くんに対して自分なりの「アンティミテ」、を描いたんですが、まあその絵は色々あって和楽くんの手元には無くなってしまって。

でももっといいアンティミテを描くしかないと思った、っていうのがめちゃくちゃ良いです。

ふたりの親密さは限りなく近くなっていって、でも完全にくっついてしまうわけじゃなくて、限りなく、アンティミテを描くたびに近さが更新されていくのが素晴らしいな…。

 

絵って、結局はその人の好みだと思うんですけど、和楽くんに刺さってしまったんだよな、郡(の絵)が…

才能に惚れてしまう事って、その人に惚れてしまう事と同意義だと思います。
群だから群の絵で、だから和楽くんに刺さって、どのピースが欠けてもふたりのアンティミテにはなり得ない、男と男…

群の才能の全てをもって和楽くんに近づいていく、それ以外の方法でなく、絵という方法で、絵でないと駄目で…

二人なりのアンティミテを描きながら、永遠に更新しながら限りなく近づいて、なりに行ってほしいなと思います。

ふたりのアンティミテに。

 

ペーパー、小話、同人の新刊の「群青」、ひととおり浴びたのですがとても良かった…

群青、群が最初に描いた「アンティミテ」を見に行くのですがめちゃくちゃオシャレで……よい……(語彙力が無い)

絵はねえ、良いですよねえ。

描くにも見るにも全部己との戦いと対話って感じで、自由で辛くて楽しくて、昔の人も絵を描いてたんだな〜と思うと不思議な感じがします。

 

読んだ本たくさんあるのに全然感想かけてない。

最近はVIPシリーズやブルーサウンドシリーズを読んで、ハチャメチャに良かった。
あと最近のカジノ誘致の話を見て、ノーモアベットじゃん!と興奮しています。