いろいろ

読んだ本の感想とか。男と男の膨大感情が好き。

「ふさいで」

 
 
息をするようにネタバレしています。
 
 
大好きな一穂ミチ先生の新刊!
嬉しい〜〜!大好き!
エスノーシリーズのスピンオフ。
シリーズ自体も本編もスピンオフも大好きなんですが、今回も大好きでした。
 
 
BLは作品が人気になるとスピンオフが出ることが多くて、別にマイナスな意味じゃなく「あ〜スピンオフ出てしまったか〜」と思う。
展開してくれるのめちゃくちゃ嬉しい〜!けど、無駄にズルズル長引くのは好きじゃないからハラハラしちゃいます。
好きだ〜の半面、人気出たシリーズはこう…スピンオフとか色々……どんどん増えていかないといけなくて…大変だなあと思いますね…色々……。
 まわりもまわりもみーんなソレ!はBLのファンタジーとしては大好きなんですけど、たまに冷静になって笑っちゃうんだよな。

 
それはさておき、めちゃくちゃ最高な1冊だった…!
私の性癖にドンピシャだった。
本編に出てきてた設楽さんと、虹彩で出てきてた栄さんの話。
何かありそうな2人だな〜と思ってたけど、たぶんみんな思ってたけど、やっぱりめっちゃ何かあった。
エスノー本編や虹彩とはまた違った雰囲気の、重くて苦しい大人なお話でした。
 
 
栄はめちゃくちゃ性格に難があるんだけどそれをカバー出来るくらいの才能があって、先輩にもタメ口で口も悪くて、とにかく性格に難がある。
設楽さんはいつも穏やかで、難がある栄にも1枚ウワテな感じで接する事ができて、でも心の中では何考えてるのか読めないタイプ。
 
序盤の、
「(略)よくへらへら俺に構ってられんなってことだよ」
「笑ってるほうが、いろいろスムーズに運んで楽だろ?」
(略)
「相馬こそ、わざわざ自分からハードル上げる生き方して、変わってる」
「おかしくもねえのに笑えるかよ」
(略)
「思ってもないこと、言えるか」
「そう?」
(略)
「……思ってること言うほうが、遥かに難しいんだけどな」
というやり取りが全て。
 
で、言いたい事バンバン言って、他人なんかどんどん跳ね除けていくタイプの栄が唯一敵わなくて読めないのが設楽で、何事も飄々とこなせる設楽が嫉妬するくらい才能とか全部全部に惚れ込んだ存在が栄なんですけど。
 
 
「ふさいで」のタイトル通り、お互いがお互いをふさぐ…というか、補い合うというか、自分が持っていないモノを持っている存在を、気に掛けながら、知っていくというか。
あとがきでミチ先生が書いていた「Fill me in」、まさにこれ!という感じでした。
「ふさいで」が「満たして」に変わって、更に「こぼれる」物語…。
 
 
主人公や登場人物が、精神的に悩んで追い詰められたり弱ったり、肉体的に大怪我したり倒れてしまう…というのが何故か昔から大好きで、加えて受けが精神的に悩んだりするのがとても好きなんですけど、この部分において完全に性癖ドンピシャでした。
しかも、簡単には折れないタイプの栄が折れてしまうというのが、また刺さる…。
あんなに強い栄が、奥くんとの事がトラウマになってストレスで片耳が聞こえなくなっちゃうんだけど、その聞こえない片耳に設楽が言葉を囁いたのがとっても……しかも遠くへ行く前の情事後……溜め息が出るくらい美しかった。
 
 
精神的に傷ついてしまってもうテレビの仕事は辞めると言い出す栄に対して設楽さんが言った、
「お前が天才だからだ。俺の憧れと尊敬と嫉妬が全部そこにあるからだ。」
という台詞が、もう本当に好きすぎて。
「どこに行こうが、俺はずっと栄の仕事を見てるから……」って…
栄の才能に嫉妬して、愛してるからこそ、栄をテレビに縛り付けるような言葉を吐いて…ひどい男…(褒めてる)
でもこの言葉があって、栄も辞めずに、意識しながら、設楽さんを傍に感じながら、仕事を続けたわけで…
愛と憎って、裏表なんだとどこでも言うけど真理だなって思います。
でも栄も、設楽さんに対して同じ感情を持っていたんだろうな。
憧れと尊敬と嫉妬。
語彙力が無いけど、この後「ふさぐ」情事になだれ込むのが本当に最高。
 
 
後半、奥くんに対して言った、
「目の前であんなふうに裏切られて、怒るより傷ついたんだよ。しかもそれを自分で認められない性格だから、深く長く引きずった。友達だって言っただろう、あれは嘘か?俺は、お前が栄を傷つけたことを一生許さない。」
という設楽さんの台詞が、もうめちゃくちゃ〜にツボでした。
強くて他人の影響なんて全く受けない人間が、強い故に自分が傷ついてるのに気づけなくてボロボロになってしまうくらい引きずっている、のがまずツボなんですけれど。
栄が下手したら自分でも気付いてないような、認められないような傷の部分を、設楽さんは理解してて。
本は栄からの目線で書かれてるので設楽さんの目線は出てこないんですけど、あとがき代わりのSSだけ設楽さん目線で書かれていて、それが本当にいい置き方で。
才能に、全てに惚れて、他人に嫉妬して、許されたくて、愛してしまった男の、静かな願掛け…
下手したら一生縁切りになりかねない空気もあるのに底を見せない2人がふさぎあえたのは、前提として愛してしまったからだったのかな。
 
 
2回目の情事シーンがめちゃくちゃ好きです。
一旦抜いて「もっとふさがれたいか?」って聞く設楽さん、最高の最強……全部をわかってる。
俺をお前の男にしてくれ、って、最強…
栄が、意外と意地張らずにちゃんと設楽の事が好きなのを認めてるのがすごく良いです。
ページ数の割に回数は少ないんですが全然マイナスにならなくて、むしろそこが苦い感じにマッチしてて、ぎゅっとつまってます。
表現もとても美しい。
設楽さんみたいな、普段飄々としてて温厚でずーっとニコニコしてるタイプの人間が、余裕がなくなる様が、最高。
 
 
作中、時間がどんどん流れていくんだけど、でも読んでるとすごくゆっくりな波の中に居るような。
かけがえない時間とか、居なくなってしまった人とか、失ったものもそれぞれあって戻れない時間がある一方で、お互い違う場所で頑張ったり、急に転機があったり、時間が解決してくれる事もあったりとか。
時間の中で、2人が、いや3人が、おさまる所におさまっていくのが、すごく良かった。
極彩色を見る設楽と白黒を見る栄が合わさって、中和されていくような。
時間には終わりがある事を知ってる2人が、知ってて瞬間を焼き付けようとする美しさ。
 
 
シリーズとしてもイエスノーや虹彩の面々が出て来てて楽しめました。
毎回思うけど、テレビ界のお仕事小説としても普通にへぇ〜!となって面白い。
後半のオンエア本番シーンとか普通に手に汗握りました。
物語も、重くて読み応えあって話をちゃんと回収して解決…というか折り合いがついてすごく良かった。
薄すぎず厚すぎずだけど読み応えあって。
シリーズ、物語面も本としてすごく綺麗で大好き。
BL小説では珍しく、挿絵がなかったのも個人的には良かったです。
 
 
ミチ先生が書く日本語が本当に美しくて。
2人の間の見えない空気とか、関係とか、存在しないものを描写する表現が本当に好きです。
セリフがリアルな所とか、たまにふと入る本人のひとり言みたいなひと言とかも好き。
「俺はこれからひとりで、また自分をふさがなきゃ」とか。
何でこんなに美しいのかわからないけど、日本人で日本語が読めて本当に良かったなあと心から思ってしまいます。
気持ちの描写が大事なBLのジャンルだからこそまた美しいのかもなあ。
こんな表現、生まれ変わっても出てこないなあと1行読むたびに思ってしまう。
ミチ先生の本は、本を読むのが好きで、その2人の関係を文で見ることができて、本当によかったと心から思えます。
 
 
次のシリーズ新刊もとても楽しみです。